黒い鳥



あなたは一羽の黒い鳥を手に入れました。
黒い鳥の羽はそれはそれはつやつやとしていて闇のようにきれいです。
まるで影の国からきた鳥みたいなのです。

あなたはその鳥を愛でました。
最上の檻にいれて金の鍵で封をしました。
鳥がけっしてあなたのもとから逃げないように。

規則ただしく生活した鳥はいつしか飛べなくなりました。
飛べなくなった翼を捨てれば歩くこともできるのでしょうが、なにしろ鳥なのでそんなことはできません。
鳥のちいさな心臓はとくとくと動きつづけていましたし、新種の宝石みたいな瞳が力なく閉じられることもありませんでした。



あなたは毎日のように鳥に話しかけました。
外にでるのはやめました。
だってあなたには美しい鳥がいるんですもの。
あなたは掃除をしなかったのでカーテンは埃で灰色になりました。
絨毯はすりきれて砂になりました。
屋根は穴が開いてただの板になりました。
鳥は生きつづけました。いのちってなんて強いのでしょう。

鳥をてにいれた日からあなたは一睡もしませんでしたので、あなたの目の下にはおおきなくまができました。
お風呂にもはいりませんでしたので、髪は醜くもつれあいだしました。

板のすきまからは毎日ひざしがてりつけましたので、陽にやけた鳥の羽は白くなってゆきました。
そして鳥がきてからちょうど一年がたったころ、あなたの体はすっかり黒くなっていて、鳥の体はすっかり白くなっていました。
あなたはやせ細り餓鬼のようになりました。
鳥はたくましくなりそびえるようになりました。
あなたの髪が腕にからみつきひだになりました。
鳥の羽は日増しに太くなり力づよくなりました。



ほら、気づけば見てみなさい。
目の前に二本足で立つ男が見えるでしょう。
髪のきれはしにつつまれたあなたは一羽の黒い鳥になっているのです。

あなたは言葉をはなすこともままならない男の手からするりと逃げ出しました。
あなたは飛んだのです。
あなたが野生で生きながらえることを覚え男が歌を歌いだすころ、男とあなたは再び出会うでしょう。
最初とはちがうかたちで。



空を飛びながら、あなたはあなたであることを忘れてゆきます。
またおいでなさい。
今度は、男の指の先に。




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