そこには墓が建っていた。
誰もこの墓がいつからあるのかこたえることができなかった。
それほど古い墓がそこには建っていた。

墓は石でできていた。
頑丈そうで荒削りな表面は長い年月をかけて這い上がってきたこけに侵食され緑色に変色していた。
きざまれた黒い文字は石の風化によってうすくなり読めなかった。

その墓を目にした人々はかならず不思議そうな表情をつくり首をかしげた。
その墓が墓地にでもなく泥道のわきにでもなくとある細い路地のまんなかに堂々とたたずんでいたからだった。



人々はこのじゃまな墓をどうにかしてどかそうと躍起になった。
だが名のある大工が金づちをふるおうが天才とよばれる彫刻家がのみをふるおうが墓はびくともしなかった。
最新の機械で地面をえぐろうとしたが作業の最中に整備されていたはずの機械のねじが飛び大爆発をおこした。
まわりの建物がふきとび操縦者と見物人が死んだが墓はのこった。

人々はあきらめた。
大工や彫刻家は腹を立てて町をでていた。
墓のために墓をふやすことがばかばかしく感じられた。
ちっぽけな墓のためにしたことは町にとって犠牲がすぎた。



それから何百年か経ちその間に町は栄えた。
墓はそこに在りつづけながらしずかな風化を続けついには消滅した。
人々はいつしか墓のことを忘れていた。
ますます細くなった路地から薄汚い石の塊がなくなったことなどには誰も気がつかなかった。

墓はなくなった。
だが墓があった場所の土はちいさく盛り上がっていた。
何かが埋めてあるようだったがやはり誰も気がつかなかった。

ある夜野良犬がしのびより土の臭いをかいだ後掘りはじめた。
穴がだいぶ深く達したところでそこから真っ黒く大きなものがとび出した。
犬は驚き逃げようとしたが真っ黒く大きなものから強烈な一打をくらい頭から血を流して死んだ。
大きなものは死体を食んだ。



黒く大きなものは寝静まった町中を歩き回った。
黒く大きなものは歩幅も大きかったので日がのぼるころには町の隅々まで歩きつくしていた。
黒く大きなものは日の出と共に破壊をはじめた。
そびえるビルをなぎ倒し車ごと口に放り込み噛み砕いてしまった。
人々は助けを求め逃げ回ったがその努力も虚しく死んでいった。
すべての建物がその日のうちに瓦礫の山になり町は滅びた。

大きなものは餌をさがし長いことさまよったが周りは荒れ狂う海におおわれていたので落ち溺れ死んだ。



町の人々は墓を壊してはならなかったし墓がなくなろうものならはやいうちに再び立て直さなければならなかった。
年月が経つうちに人々は墓が悪いものを封印した石碑だということを忘れついには存在すら記憶からおいだしてしまった。
町の人々は知らずに重大な間違いをおこしていた。



それから七日過ぎた頃町にいる知人を訪ねに数人が船でやってきた。
船をおりた人々は町の荒れ果てたさまをみてひどく嘆いた。
一人は異国の偉人だった。

やがて滅びた町にはかつての町の広さほどの巨大な墓が建てられた。
墓がある町は巨大な一つの墓になった。




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