年寄り猫



起きて寝ぼけ眼で時計を見ると正午をすぎたところだった。

寒さにみぶるいしながら着替えをすませおそい朝食を買いに出る。
息がしろい。
もうすっかり冬だ。
氷ですべらないように足元に注意する。

人気のない空き地に目をやると年老いた猫がこごえていた。
体をぶるぶるふるわせながらまんまるくなっている。
猫はこたつでまるくなるもんだと思いそろそろ近づき捕獲しようと両手をひろげたところでその猫が言葉を発した。
「お前さんわしに何をする気かね」
ぼくは自分がやましいことをしてしまったような気分になって思わずうつむき手をひっこめた。
「ごめんなさい。ただあなたがあまりにも寒そうだったもので」
猫はしょぼしょぼと目をほそめぼくを上から下まで眺め回した。
それから最近の若者はといったふうなため息をしゅーとついて、
「やれやれ。猫もずいぶん見くびられたものだ。
見ろ、このチャコールの毛並みを。みごとなもんだろう」

猫はふんと鼻をならしたがそのみごとな毛並みというのはどうみても白黒のぶちだった。

「あのー、そのみごとな毛並みというのはどうみても・・・」
「毛深すぎて暑いぐらいだわい。ひっくしょん」
猫はくしゃみをした拍子に鼻水をたらした。
ずるずると鼻をならしていたがあきらめたようで鼻水はそのままになった。

「あのー、大丈夫ですか」
「うるさいわい。ほうっといてくれ。ひっくしょん」
「あのー・・・・」

猫はそっぽをむいてしまった。
年をとると人にかぎらず頑固になるらしい。
ぼくは去り際猫に風邪をひかないでくださいと一言言い残しその場を立ち去った。
白黒のぶちでチャコールはないよなあと思いながら。




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