赤いワンピースの少女



公園のベンチにすわっていると赤いワンピースに黒いケープを羽織るというかわった格好の少女がやってきてぼくに拳銃をむけた。

長くうつくしい髪を耳にかけながら少女はしずかに笑った。
くちびるを上にひきあげるようなとても下品な笑いかただった。

「あのー」
「なあに」
彼女は楽しそうに首をかしげた。
あきらかに確信犯な彼女の目をみながらぼくはゆっくりと言った。

「あなたはぼくを殺すのかな」

少女の目がきらりと光った。
とても下品な光りかただった。

「ええ。そうよ。あなたはわたしに撃たれてどす黒い血を流しながら死ぬのよ」
花びらのようなスカートをはためかせ彼女はふたたび笑った。
ぼくは黙っていた。
「わたしがこれを持って買い物をしに行くように見えるの?
見えないでしょう。
あなたはそこまで馬鹿じゃないものね。賢くもないけれど」



北のほうから冷たい風がふいてきた。
とても冷たい風だった。

少女はすこしづつ引き金をしぼった。
それは本当にすこしづつでじれったくなったぼくは言った。

「はやく殺してくれればいいのに」

彼女は言った。

「そうね」



ふりつもった雪のように白い指が引き金をしぼりきり日を反射する銃口から煙があふれた。
撃たれたはずのぼくの思考には濁りのひとつもみつからなかった。
どうしてだろうと地面に視線をおとすと彼女が倒れていた。
下品な笑みをうかべていたくちびるから血が細くつたい土にしみをつくっていた。

ぼくはゆるんだ手から拳銃をひろいこめかみにあて引き金をひいてみた。
弾はでなかった。
もう一度少女をみやると少女はそこから消えていた。
かたい拳銃だけがぼくの手にのこった。




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