告白



散歩がてらに道を歩いているとむこうから中学生ぐらいの女の子がやってきた。
それはそれはかわいい子で細い足を交互にだして歩みを進めるさまはまるで真っ白な鶴のようだった。
あんな妹がいたら楽しいだろうなと思った。

「ちょっと待ってください」
女の子はぼくをすれちがいざまに呼び止めた。
おどろいてふりむくと緊張してこわばった顔が目の前にあった。
どこかさわってしまったかなと心配になっていると女の子は言った。

「わたしとつきあってください」

ぼくの頭がショートした。
しずかに時がとまった。



「・・・・。ぼくと?」
「はい」
ぼくは混乱してしまった。
女の子とは初対面のはずだった。
「人違いじゃないかな」
「いいえ。人違いなんかではありません。わたしとつきあってください」
女の子は真剣な様子でぼくに頭をさげた。
ぺこり。
どぎまぎしつつもどうやってことわろうかと考えていると女の子は最後にこう言った。

「わたし、女の人が好きなんです」

ぼくの時間が完璧にとまった。
とても完璧にとまった。
女の人。
レズビアンかな。
それならそれでかまわないけどなぜぼくに?

「・・・・。女の人が好きなの?」
「そうです。あなたはとても魅力的でした」
「ううん。だってぼくは男だよ」
「そんなはずありません。あなたはどこからどうみても女です」
「・・・・」

ぼくは困り果ててしまった。
今朝面倒くさがって手入れをおこたったので無精ひげなんぞもはえているはずなのになぜこの子はぼくを女の人と思いこんでしまったんだろう。
もしかして目が不自由なのかもしれない。

「・・・・。病院には行ったの」
「ひどい。わたしの頭がおかしいと思っているんですね。こんなに好きなのに」

女の子は泣きはじめた。
ぼくはますますどぎまぎしてしまってうつむいた。
勘違いされていてもこんなに好意をよせられたのははじめてだった。
その好意をむだにしないためにもきちんとことわらなくてはと思い言葉を続けた。
「ぼくは女じゃないしきみとつきあうこともできない、ごめんね」
「いや。なんでもするからつきあって」
「・・・・」
「それにあなたはやっぱりどこをどうみても女なんだもの。すぐばれるようなうそいわないで」
「・・・・。うそじゃないんだけど」
なかなか手ごわい。
女の子はしゃがみこんで声をあげて泣き出した。

ぼくは頭をかいた。
しかたがないこのさい逃げてしまおう。

ぼくは走り出した。
女の子が待ってと叫んでいる。
良心がうずいたが立ち止まらずにスピードをあげた。
後ろから足音がきこえてくる。
もしかして追いかけてきたのかもしれない。
ぼくはなんだかこわくなった。
息があれてくる。足音が大きくなる。



誰もいない団地のなかでぼくと彼女の足音だけが響いている。
永遠のようだ。

タッタッタッタッタッタッタッタッ

追いつかれたら何をされるんだろう。心臓が破裂しそうだ。
後ろでは般若になった少女がぼくを追っている。
般若。
牙がはえ髪は荒れ狂う炎のようだ。
ぼくは戦慄する。
ぼくは戦慄するも疲れきっている。
スピードは落ちつづける。
般若との距離がちぢまる。

もう後ろに誰がいるのかもわからない。



タッタッタッタッタッタッタッタッ
タッタッタッタッタッタッタッタッ
タッタッタッタッタッタッタッタッ
タッタッタッタッタッタッタッタッ
タッタッタッタッタッタッタッタッ
タッタッタッタッタッタッタッタッ



誰もいない団地のなかでぼくの足音だけが響いている。




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