血
突然液体がふきだしてぼくの足をぬらした。 見ると買ったばかりのジーンズが真っ赤にそまっていた。 気味がわるくなり液体の出どころをつきとめようとしてあたりを見回したが何の異変もなかった。 ため息をつき汚れをおとそうとつかみとったタオルを水にぬらすため台所にむかう。 蛇口をひねろうとして気がついた。 右手が切断されそこから血がふきだしていた。 顔がひきつり吐き気をこらえた。 痛みはなかった。 まるでなにかのおもちゃのように血はあとからあとからふきだしていた。 「神秘の湧き水だ」 ぼくはつぶやき切断面にふれてみた。 ぬるり。 血の感触がしてこれは夢ではないのだと思った。 体中に鳥肌がたち心臓がちぢみあがった。 どうにかして助けを求めようと受話器をとり片手で苦労して電話番号をおそうとしているとチャイムが鳴った。 「・・・・。助かった」 ぼくは安堵の息をはき玄関の扉を開けた。 友人の長谷川だった。 長谷川は脱色した髪の先を指先でいじりながらぼくに笑いかけようしたが手首の出血に気づき青ざめた。 彼はたどたどしく言った。 「それ。お前、そんなに悩んでいたのか」 「勘違いしないでくれよ。自殺しようとしたわけでもないしぼくには手首をきりおとす怪力もないんだ」 「お前の悩みに気づかなかったおれをせめないでくれ」 「長谷川、そうじゃないんだ。まあいいや。とりあえず救急車を呼んでくれないか」 長谷川は後ろに二三歩しりぞくと背をむけぶるぶるふるえはじめた。 ぼくは困ってしまった。 今救急車が必要なのは彼なのかもしれない。 「吐くなよ」 一応とめておいた。 戻る |