かわった来客



洗面所で手を洗っていると蛇口から生首がおちてきた。

じゃー。
にゅにゅにゅ。
ぽろり。ゴトッ。

ぼくは転がる生首の行方を追った。
生首は洗面所を横切ると廊下の途中でとまって言った。

「すみません」
「はい。なんでしょう」
「起こしてくださいませんか」
ぼくは生首の頬を両手でつかみ首の断面を床につけ前をむけるようにした。
「ありがとうございます。一人では起き上がれないものですから」
生首はお礼を言ってにこにこと笑った。



「あのー」
「はい」
「何で蛇口なんかからでてきたのかおききしてもよろしいでしょうか」
「ああ、ああ。いやねえ、わたくし、生首をしていたんですよ」

ぼくはしばらく黙った。生首って職業だったのだろうか。

「・・・・。見れば分かります」
「でしょう。敵につかまりましてね。そのままストンですよ。ひどいものでしょう」
「・・・・」

生首は気前よくはっはっはと笑った。
ぼくはふたたびしばらく黙った。
考えこむぼくをおいて生首は言った。

「でもね、暇で暇でどうしようもなくなってしまったので、今日、ぬけだしてきたんです」
「・・・・。どこからでしょうか」
「あの世です」
「・・・・。なるほど」

生首は生きていたころの思い出を語りはじめた。
ぼくはそれをしずかにきいていたがふと思い生首の頭をなでてみた。
なでなで。
「くすぐったいです」
「いいじゃないですか。生首の頭をなでる機会なんてめったにありませんから」
「・・・・。そうですか。じゃあどうぞ」
なでなでなでなで。



ピンポーン。
チャイムがなった。
ぼくは生首の髪をつかみ手提げ鞄をぶらさげるような格好で玄関の戸を開けた。

宅急便のおじさんがそこには立っていた。
「すみませんここにはんこ・・・・・」
おじさんはぼくが生首を手提げ鞄のようにぶらさげていることに気がつくと目をとびだしてしまいそうなぐらい見開き怪獣のような悲鳴をあげた。
ぎゃあああああああああああああああ・・・・。
そして郵便物をほうりなげると腰をぬかしたのか這いながらぼくの視界からフェードアウトしていった。
おびえられた生首は顔を赤くした。
「・・・。わたくし、そんなに怖いのでしょうか」
「怖いでしょうねえ。ぼくは平気ですけど」
「そうですか。それならいいんです」



しばらくすると二度目のチャイムがなった。
生首は心配そうな顔をして言った。
「どこかに隠れていましょうか」
「いやいや。大丈夫でしょう」
「はあ」
ぼくは生首の髪をつかみ手提げ鞄をぶらさげるような格好で玄関の戸を開けた。

長谷川だった。
長谷川は右手をかるく上にあげ言った。
「救急車ではこばれたときぶりだな」
「そうだね。久しぶり」
そうこたえたとき長谷川はぼくが生首を手提げ鞄のようにぶらさげていることに気がついた。
だが彼は顔色をかえずに言った。

「なあ。この人どこからきたんだ?」



お茶を飲みながらぼくらは生首の頭をなでた。
なでなでなで。
生首は困り果てた様子で言う。
「あのー。はげてしまいます」
ぼくらはそれを無視して頭をなでつづけた。
なでなでなで。
生首はあいかわらず困り果てた様子で言う。

「あのー」
「なんですか」
「やめてくれませんか」
「嫌です」

なでなでなでなで。





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