帰路



退屈だったので散歩にでるとあたりはまったくの闇だった。
ふるびた街灯が点滅をくりかえしている。
空をみあげると銀色の星がちらほらとまたたいていた。
顔の前を風が走りぬけた。鼻にしみる。



しばらく河原沿いを歩きポケットの中の小銭をたしかめその金でビールを買った。
ビニールぶくろがこすれる音を耳にしながら帰路をたどっていると道ばたで少年が苦しそうに身をかがめていた。
できればかかわりたくなかったが彼があまりにも苦しそうだったのでそばにより声をかけてみた。
「大丈夫かい」
少年はあえぐような呼吸をくりかえしていたが一声うめくとその場にばたりとたおれた。
ぼくはかがみこみ抱え起こしてみたが少年は冷たくなっていた。

ぼくの心臓がどくりと一つ波うちしずかになった。
病院を探さなくてはと思った。

あたりを見回してみたが知らない路地にまぎれこんでいるのに気がついた。
道がわからなかった。
ぼくは少年を背負いゆっくりと歩き出した。

体からは筋肉のこわばりが消えており少年の全体重がのしかかってきて重かった。
だるくなる足をひきずりながらぼくは歩いたが路地はいりくみ一向に闇をはらむばかりでしまいには星でさえ一つづつ消えてゆくようだった。
少年の髪が頬をくすぐる。



やがて息があれ眠気のために思考がぼやけはじめた。
夢を見ているような気がした。
ぼくはあせって歩調をあげるのだが足が言うことをきかずふらつき転んでしまった。
少年の死体がぼくの肺をしめつけた。

夜の腕が路地にまいおりぼくをつぶした。
ぼくはうめいた。
あたりは本当の闇になった。

「漆黒だ」
ぼくはつぶやき目をとじた。




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