蛙もどき



花をもらってきたので水にひたそうと思いバケツを探していた。
バケツは押入れの奥でほこりをかぶっていた。
手をのばしとりだしたバケツの中をのぞくと蛙に似たまっくろなものが入っていた。
バケツごと放り投げそうになったがやっとのことでこらえそれをつかみあげた。

「きゅー」

蛙に似たまっくろなものは鳴いた。
細く高いまるで黒板をひっかいたような嫌な声だった。
ぼくは手首に鳥肌をたてながら手のひらの上にのせたまっくろなものを眺め回した。
まっくろなものはピタピタと音をたてながらおぞましい感触でぼくの上を這いまわった。
這いまわったあとには粘液が糸をひいた。

「きゅー」

ぼくは嫌悪のあまり痙攣しはじめた手のひらをまるめそのまっくろいものを思いきり力をこめて握りつぶした。

「ぐええ」

気味の悪い声を最後にまっくろいものはしずかになる。
ぐちゃり。
やつの緑色の体液がとびちる。

ぼくは手のひらを開く。
そこにはヘドロのようになったなにかがあった。
ヘドロはぼくの手をすべりおち床の上にぼたぼたと垂れた。
一週間強力な洗剤でみがきつづけても落ちなそうなほどの濃いしみができた。

ぼくは手のひらをにらむ。




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