みんなばっかみたいだ



なんだかひどく疲れてしまった。
みんなはにこにこと始終笑顔だ。
けれどそれははたして、ぼくにむけられたものなのか、世間にむけられたものなのか。

そんなぼくだって例外とはいえない。

まわりの人たちが奇獣のようにみえる。
しゃべくる奇獣。珍獣。
さっぱりおもしろくないのに、体は条件反射でとりあえず笑っている。
これは笑うってことなのかな、なんかな。
顔をゆがめてギャアギャアとわめいてるだけのような気がする。
こうすることで不安をまぎらわしてんだ。

ぼくが人間不信なだけなのかもしれないけど。



本屋をぶらついているとそんなことをわすれることができる、紙のにおい、さわさわとうごめくきぬずれの音。
そんなんだけなんだ。
存在するのはそんなんだけ。
たまにかかわってくる変な人もいるけれど、それ以外はみんな無関係、つくりわらいだってしなくていい、人目を気にせずばかばかしい文をよむことができる。

「ねえ、はる」
「ん」
「いつからここにいた?」

ぼくは面倒くさくなってきびすをかえす、そんなもの言いたくないんだ、そんなこと、そんなことから逃げるためにここにきたんだから。

「待ってよ」
しらねーよ。



思いやりをもつのがいいとか、逃げるのはよくないとか、だったらそういうのを意識しなきゃできない人間だった場合どうすればいいんだ。
さりげなくするのがいいとか、あれはだめだこれはだめだとかって、じゃあきみらは完全なる人間といえるのか、完全なるいきものだといえるのか。

あーあ。
そういうわけじゃないのに。
りくつっぽくてだめだなと頭をかく。
だってそうだもの。
こんなこと言うこと自体が逃げなんだって。



なんだかひどく、疲れた。
疲れてしまった。

鉛のようなんだ。
うまく動いてくれない。
腕や足がウドの大木にでもなったかのよう。

ときどきすべてぶっとばしたくなるよ。
笑い飛ばしたくなるよ。
そんなんどうでもいいじゃんてさ。

うるっさくて、やかましくて、耳ふさげばなぐられるし、あちこちで理不尽な意見ばっかとびかって、なあんにもなあんにもなあんにも考えらんない。
なんか、わかんない。
そういうの。わかんない。
どうすればいいのか、わかんない。

こどもなんだろうな、ぼくの頭脳は。
もうだめかもね。更正不能かもね。
わかんないや。ほんと。



じおんが後ろからこばしりでついてくる。
突然たちどまって目の前の本をわしづかみして、適当にページめくってなんだこれってげらげら笑ってやった。
じおんはきょとんとぼくを見ていたけれど、やがてあきれたように顔をゆがめて笑った。



ほらな。こういうことだ。手足がカクカクしたぼくは完全に、いかれてる。
ばっかみたい。




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