本が嫌い



「本なんて本当はだいっきらい」

けっきょく後を追ってきたぼくに、はるは言う。
どんな内容でもいい。
ああ、しゃべってくれた、と安堵の息を、そっと、はるに聴こえないように静かに吐き出した。



「じゃあなんで本屋にいるの」
「ここがどうでもいいことであふれてるからさ」
ただ読みをさせるために置かれた椅子にすわり、相手はこよみよがしに頬杖をつく。

「統一性がまるでなくて、表紙をめくればみんなばらばらで、似たような作者の名前がかさなってわけわかんなくなってるところもあって、それが呼び名とかそういう、存在とかもぜんぜん、肝心じゃないことみたいだから」



レジの人がはいってきた家族連れに、いらっしゃいませと元気な声をかけた。
その前を家族連れは無言でとおりすぎてゆく。
それでも店員は、とってもいいえがお。



「けど本なんてきらい」
「どういうこと?」

「くだらねえ世界をつめこみ放題、おわったら腐ってくだけなのに」
「でもまだはじまったばかりだよ、これらは」

はるは目をむいてぼくを見る。

「果たしてそうかな」




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