そして、じおん



置いてきぼりにされてることに気づいて、はっとした。

あたりをみまわすと、歪んだ異空間はふつうの本屋に変貌していた。
一人の人間がそこにいるってだけで雰囲気はあんなにかわるんだ。
すこし背筋がざわりとする。



はるはぼくから逃げた。
まあ、そうだろう。
だってぼくはどっからか入りこんできた五月蝿にすぎないんだからね。



ぼくはただの本屋になったところをぶらぶらあるきまわった。
はるがいつもそうしていたように。

あれはういていた、いつでも、いつでも、いつでも。
あれじゃ「ふつうのにんげん」が出入りするところにいつづけるのは息苦しいだろう。

けれどあれと一緒にいるぼくも十分、息苦しい思いをした。
言葉をかわしてるだけで、はるからつたわるとげとげしいオーラにいらいらして、意味不明な感情ぶつけられて混乱して、ねじくれまくった根性を遠慮なくさらされて。



はるはすこしでもつらいことがあれば素直に背をむける。
ばかばかしいとつきはなす。
はるの言うことは筋がとおっているようで、よくきけば本当に支離滅裂だった。



さみしいの領域をとっくにこえたにんげん。
全部をあきらめどっかに捨ててきたにんげん。
あれはここにもどってくるだろうか。



いや、はるはぼくがいるかぎりきっと、ここにはもどってこない。

ぼくはこんなにも分かってる。
理解してる。
なのになんだか悔しくてたまんない。

こんなのはるとつるむようになってからは、いつものこと、になってたけど。




戻る