ベタだな



ねえねえ、この曲、いいなって思わない? 
ってきみがしつこくきいてくるので、カップラーメンに集中したいおれにとっては、ちょっとうざかったりするのね、それがさ。

「はあん。ベタだね」
「なんだよそれ。あいかわらず意地が悪い」

おれはラーメンをずるずるとすすりあげ丁寧に噛みつぶし飲んだ。

「うっまー」
「死ね。一生ラーメン食ってろ」

べつにそこまでラーメン好きなわけじゃないんですけどね、
って、きいてないか。
お互いさまじゃんかね。

きみは煙草に火をつけるときれいな動作でそれを口にはこびすぱーと吸ってみせた。
伝統的な踊り観賞するより、あきないと思うよ、その仕草をみてるのって。

「うまそうに吸うね」
「うまいからね」
「あ、そう」
「うん。そう」

カップにういてるエビをつまんで、スープを味わう。
いや、いつになってもかわらない味。
すばらしい。
百点満点だ。
うそだけど。

「ピンクの象の夢をみる」
「はあん。ベタだね」
「ベタなの? それって」
「や、しらね」
「ねえねえ、どうでもいいから、ラーメンちょっと食べさせてよ」
「やだ。きみと間接キスなんて死んでもしたくない。ていうか象の話題もちだしたの、きみですよ」
「なんだよそれ。あいかわらず意地が悪い」



煙草のけむりと、
生活臭と、
ラーメンと、
さかりがついた犬の遠吠えと、
隣の部屋からのしゃべり声。

「あの人たち、なにしゃべってんだろうね」
「さあ」
「おいしい? ラーメン」
「まあね」

きみ、煙草ぷかー、again。



「なんかね」
ずるずるずる。
「こうしてること自体がベタなんじゃないかって」

あ、残り少ない。もうちょっとあるかと思ったのに。

「思うわけなんだ。ちょっと。なにへんな顔してんの」
「へんな顔とはなんだ」
「きいてんなら相づちくらいうてっつーの」
「ばか」
「あ、そういうこと言うんだ、へー、そう、ふーん」
「ばか。ばかばかばかばかばかばーか。逝け」
「うわ、ひどい。訴えよう。警察に訴えよう」
ずずー。
「ごちそうさま」
「おまえほんと死ね」



だってしようがないじゃんすか。
これがおれらの日常なんだもの。
そういうものを彩るために、煙草だの、なんだのってものがあるんじゃん、ね。
このラーメンのかわらなすぎる味だって、くどいって思えばくどいけど、
まあおれらを楽しませてくれるもんだって思えば、
なんとかやってけそうな気がするじゃない。



「死ね死ね死ね死ねしーねっ」

だからね、耳のそばでリサイタルなんてひらかないでおくれ、ハニー。
正直うざい。



「ボクがわるかったでーず、だから黙って」
「やだ」
「もーどうしたらいいの」
「抱っこしろ」
「わかりましたよ」
「最初からそうしろ」

「ベタだな」
「ベタだとも」




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