こどくなじんるい



それから数日すぎて、うっすらとしたわだかまりつかぬ真っ黒いもやもやをいじくりまわしながら、ぼくはいつも本屋にくるようになっていた。

眉をよせるようにしてこまい文字でかかれた本のタイトルをにらむ。
ぼくはまちがってもはるを探したりしない。
はるが行きそうな場所をしらないってのもあるけど。

こないって知ってるのに本屋にいつづけるのはおかしいことなのかもしれない。
まあいいや。
なにもおかしいことということに怖気づく必要なんてものはない。



わざと靴音をたてて店中をあるきまわる。
おばさんたちが嫌なものを見るような目でぼくをにらむ。

別にこわくない。
もうこわくない。
なんだかどうでもいいことのようで。

客に笑顔ふりまき挨拶するりちぎな店員の顔も、毎日ちがうはずなのにみんなおんなじ人に見えてきて、ひそかにここは妖怪屋敷かとつぶやいた。



案外そうかもしれない。

こんなね、土日に誰とでもなく一人で本屋いるやつほど異常なやつはいないんだよ。

いつかはるが言ったようにね。



ぼくはひとりだった。
どこでもひとりだった。
どこだってひとりだ。いつでもひとりだ。

別にこわくない。
もうこわくない。
だけどこれは、どうでもいいことじゃない。

たまに本をめくっていると意味もなく手が冷えて脂汗がでてくるし、おなかが突然いたくなったり、めまいでくらくらして足元がふらつくときだってある。
みんなはストレスだなんだって心配そうに眉をよせるけれど、そんないんちきかなんかわかんない対応に頼るなんてまっぴらだった。
そっちにずっとつかってたらますます悪化しちゃう。

はるはいつでもこんな気持ちだったんだろう。
まあそれが分かったからといってどうというわけでもないんだけど。
ただ、苦しんだり、悲しんだり、あんな無表情のおめんのような中でもはるはそれをやってたわけで。



ぼくはひとりだった。
はるもひとりだった。
みんなひとりだった。
鼻がつんとした。




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