遊歩道にてさとること



ひかれあう二人!
せまりくる危機!
タイムリミットはあとわずか!
二人の想いはつうじるのか!

今のじおんとぼくの状態は世間様にいわせればこんなものだろうか。
ウエッ、ウエー。
マジチョーきもイ。



自分で想像して吐き気をもよおした現代の若者ぼくは、すてきな遊歩道に噛みかけのガムをぺっと吐いた。
足をだしかけたどこかのおかあさんと子供が目の前におちてきた汚物をびっくりした目でみて、それからぼくにすさまじい視線を這わせる。
おやおや、さっきまでの幸せムードはどこへ。

「なにするのよ」
おかあさん。
「なにするのー」
こども。
「本なんて嫌い」
ぼく。

「なにを言っているのよ」
「なにをいってるのー」
「本屋ってよく行くの?」

「まったく近頃のこどもときたら」
「まったく」
あなたこどもつれてるじゃん。



立ち去った親子はけっきょくガムをふんづけた。
言いあっているうちにガムの存在をわすれてしまったみたい。



つめてた息をはきだして空をみあげる。
ここはどこだろう。
いつも家というものに帰っているはずなんだけど、歩いているうちに記憶はことごとくうすれてゆく。

いつでもなんにもうったえることすら許されない。
いやぼくはじゅうぶん過ぎるほどの文句をくっちゃべってきた。
だから口をふさがれたんだ。
何者かに。
何者だ。
何者だ。



となりにどっかと腰をおろした一目瞭然で不良とわかる金髪野郎がたばこをぶはーとふかして、ぼくはせきこむ。
たばこのにおいなんて大嫌いだ。



からんからんの空にはひとすじの風がまっている。
たぶん、そうだよ。
今ここであの風がふきぬけたら、ぼくは消えちまえるのに。

ちくしょう、こんなのぼくらしくない。



うらうらゆれるはるじおん。
消滅するメモリーズ、ああ無情。
そこに広がるのはまっくらな世界。

言葉をてばなす。

せつないほどの衝動。

夜の街にさけんだなんか。

ぼくにもそんなもんがあったんだ。



本屋からうごけずにいたこの足はよわむしだ。
いつでも。
そうだ。



たばこのにおいなんて大嫌いだ。



「てめーのような糞は死ね」




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