路地裏のはる
くそ野郎にぼこぼこにされて口の中きったぼくは夜の街に消えます。 ばいばい。ばいばい。モンスーンもなんもふくな。 あきらめてんだ。 ぼくは全部あきらめてんだ。 もう家にはかえんない。 ぐるっぐるにまぜこぜにされたぼくの、すべて。 繁華街はみだらにうるんでる。 ハイヒールのかつかつって音が横をすりぬけてく。 ぼくは本屋すらぬけだした。 じゃあこれからどこに行くっつんだろう。 “人類は最後に、どこに行きつくのか” くちびるをガムのようにかみしめて、早足で、そんな目のはしには、流れ星を写真にとったみたく残像がまじってゆく。 世界の果てからすら逃げたら。 路地にはいりこむと、のらねこがごみ箱の下にねっころがっている。 ふらふら近寄って抱き上げたら首がかくんとおれて頭、胸におっつけられて、気づく、死んでる。 うすぎたない小道にぺたんとひざをついて、くーっとねこをひきよせる。 ごみだらけの場所でねこは死ぬ。 からすがぎらぎらのネオンからまいおりてきて腐りかけをあさりはじめた。 ぼくはじっとねこの口もとをみる。 ひげにも、っていうか体中にきたねえなんかをこびりつけてる。 ふにゃふにゃした胴体はつめたい。 らしくないと思いながらも頭をなでてやる。 なでてやる。 こいつは名前すらないまま死んだのか、それともそれとも、名前つけられたけど捨てられたのか。 ぽいって。ぽいって。 ぼくはねこをますますくーっとだいた。 ねこの汚い顔が頬にふれそうだったけどべつにいい。 さむくて、背中からは喧騒がとだえなくて、 それはまるで本屋のそとのようで、 路地の地面は腐っていって、このねこもこのままじゃ腐っていって、 モンスーンはそのままふかなくて、 ぼくはあきらめて、 すべてをあきらめて、 からすはとびたって、はるじおんはうらうららで、 ぐっばい、グッバイセイグッバイ。 状態は、最悪。 ぼくはねこに顔をおっつけて頬ずりしてみた。 ふにゃふにゃ、かくかく、なさけない。 なんかざりざりいう。 への字にまがったくちびる、ガム吐くように、ぼくはがたがたとふるえながらねこをかきあつめるように必死にだきしめて、やっと、やっとやっとおしだしたもの。 「たすけて」 その声はひんやりにすいこまれ消えてゆく。 ぼくはもう一度つぶやく。 つめたいねこに。 どこかのだれかに。 からすがとびたつ。もうずっとまえに。 ふるえがとまらない。 ふるえがとまらない。 ぽちっと、ズボンの上に涙がおちた。 「だれかたすけて」 叫びのようにぼくは言った。 このまま死んでしまいたかった。 腕からちからがぬけてねこがころがりおちた。 その体はあんまりにもやせて汚れすぎてた。 戻る |