目にみえない捜索願



ぶあつい辞書に顔をうもれさせてちまっこい字を顔しかめて読んでた。



最近ずっと耳鳴りがする。
ぴいんぴいんいってる。
しかも腹のおくそこあたりでじんわりといやな心地がしてる。
そばにはるもいないってのに。

はるが本屋にこなくなって、ずいぶん、たったかな。
どうだっけ。
そうだな・・・ずいぶんたったね。
そうだ、はる、どこでどうしてるよ。

けどぼくはまちがってもはるを探したりしない。

最初に声をかけたのはぼくだ。名前をつけたのもぼくだ。
名前をつけてやる、名前をつけてやる。

はるはもしかして生来からの名前なんかでよばれたくなかったのかもしんない。
でもここでぶらついたときにめくったなんかの本にかいてあった、「名前は自分でつけるもんじゃない」。



辞書から顔をあげて蛍光灯に目をほそめる。
なんて不健康ながきなんだ。毎日本屋通いかよ。
もうすっかりはるにそまってる・・・・・。



なんだかはるがかわいそうになってきた。
あんなやつにあわれみをふっかけてやるなんてぼくもそうとう暇なんだろうなあ。

あきらめたにんげん、にげつづけたにんげん、
はっと目をみひらく、
辞書をばたんととじる。



「ぼくがこのまま逃げつづけたら、どこに行きつくだろうな」



脳みそのうらっかわから、ひらめいた。
思い出した。
記憶の引き出し、ようやくオープン。

はるがつぶやいた、さけびのように、
はるがつぶやいたせりふは、さけびのようだ。

頭がぐるぐるしてきた。
なんだ。
はるはもしかして、もしかして、もしかして、
ああそっか、なんだろうな、
単純なことだったのかな、そんなことだったのかな。

辞書を本棚にばっちんとおしもどして、その音にびびった通行人を無視して、入り口にいそぐ。



はるを探さなくちゃ。




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