無題9



あなたは傷を愛しむ
笑うことを忘れてしまったように夜の山の奥にいる。
わたしはちょっとだけうつむいて
冷たい泉の水をなぜている


わたしの頭はとても冷静で、星の数を正確に数えられるほど
木の枯葉が何枚落ちたかだって知っている
それが、数でしかないことも


空が何回暮れたのか
鳥がどうして落ちたのか
悲しいことがなぜ起こるのか
わたしにでさえわからない
ただあなたは何もかもを、忘れてしまった目つきで
過去の傷を愛しむ


丘のむこうの歯車が
一回転してしばらく止まる
牙をむきだしたつがいの豹が
闇にまぎれ夜道を行く


ほら わたしが歩きはじめた
獣がうろつく幾多の道を
この先に何があるのか
今のわたしにはまだ分からない


わたしの頭はとても敏感で、月の粒子がはっきり見えるほど
あなたがそこで何回泣いたかだった知っている
それが、冬でしかないことも


あなたは傷を愛しむ
笑うことを忘れてしまったように夜の山の奥にいる。
足から血を流したぼろのようなわたしが
もうすこしであなたを知る



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