お結び



ぼくは、なんてたくさんのものを
抱えていたんだろう
春のにおい
川原のすそ
はじらう麒麟草
きえる影
ぼくは たくさん あのすすけた草原で踊って
踊り疲れて たおれるころ 一人だと思って泣いたよ


ぼくは、なんてたくさんのものを
捨ててしまったんだろう
それは主に人だった
人は器でないし
かわらなく そこにあるものでもないから
彼らは捨てた途端 動き出し どこかへ行ってしまったよ
ぼくのほうは 一人で遊んでいたんだ
影絵なんか つくったりして
まきちらした 色とりどりの紙を ふみつぶして


ぼくは「抱えていた」
ぼくは「捨ててしまった」
戻らないんだ。もうここにはないんだ。
胸元はからっぽで 隣はひんやりしてる
青白い今日の連鎖が ぼくの生きた時間
もう少し、がんばって、あの子たちを抱えていられたら
今 もう少し素直に 笑えるようになっていただろうか
今 もう少しきれいな 瞳をしていただろうか


あちこちで からっぽになった手を 見つめている人がいる
青白い 朝と夜の間みたいな 露草のにおいのする
日々のはざまで
悲しそうな顔をしたその人が 立ち上がって ぼくに気づいた
裸足の足が 近づいてきて ぼくたちは手をつなぐ
「ぼくたち、同じだね」
「同じだね」・・・、・・・・
つぶやいたけれど
なんて虚しいんだろう


しんとしずかで 心臓の音がして でもさみしくて、でもどこかで、
れんぎょうの花が開いた音、
四つの耳で きいたよ



戻る