打ち水



そうして
泣かなくてもいいんだよ
雪景色はただ 冷たいだけじゃないよ
ぼくらの足跡を一つずつ
大事に とっていてくれるんだよ


きみが何を忘れようとも
きみの生きた景色は
きみを覚えているからね


そうして
苦しんでもいいんだよ
きみが自分の腕を傷つけようとも
ぼくはきみの 消えてしまう一瞬を
こうしてしっかり 握っているから


きみが苦しんだ分だけ きみの心の樹は
誰かが見ほれるほど よじのぼれるほど
大きくなっているからね


灰色の 卵の中は 苦しかったけど
ぼくは あの場所が好きだったんだ
冷たい温度の きみの日常を
きみは 自分の手首を撫ぜるカッターで切り裂きながら
泣きたくなるほど 抱きしめている
それは きみの体を突く ただの矢じゃなく
きみの背丈を伸びさせる 凛と澄んだ水なのだ



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