空中庭園



屋上は雨で
湿っていて
世界を潤す水滴が
幾粒も溢れていた


わたしはヘッドホンを付けて
音に体を揺らしていて
人の話し声なんて聞きたくなくて
でもそのかわり触れてほしいのだ


わたしはエーテルの中にいて
わたしは羊水の中にまだ
うずくまっていて
わたしは誰かに孕まれていて
だからわたしはへその緒を伝って叫ぶんだ
この腹を裂いてくれって
胎盤をひっぺがしてくれって
そうじゃないと外に出られないから


胎盤剥がれ落ちて死んでしまってもいいよ
元から 血まみれだったから


身を乗り出してみた風景は
グレイに濁っていて
みんな地面にへばりつくみたいに
でも目的が見えてるみたいな顔をして
歩いていた
わたしの耳には全ての音が聴こえそうで
だからわたしはヘッドホンを付けた
わたしは 肌の感触以外何も いらないよ


わたしはエーテルを失った
わたしは羊水の中でまだ
甘えたように乳房を吸ってる
わたしは誰かに育てられていて
だからわたしはへその緒を伝って叫ぶんだ
わたしを放してくれって
わたしを愛してくれって
わたしを信じてくれって
わたしを生かしてくれって
わたしを捨てて 誰かのもとへ行かせてくれって
わたしはこんな羊水なんて もう必要ないんだ
わたしはもっと 大きいはずなんだ
わたしは 地に足をついて走れるはずなんだ


わたしは産まれなければいけないの
わたしは産まれなければいけないの
わたしは誰かを愛さなければいけないの
わたしは大声で泣かなければいけないの


屋上はエデン
わたしがイヴになって この地を壊すのかしら



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