ライオンとシーラカンス



あるところに 一匹のライオンがいた
あるところに 一匹のシーラカンスがいた
彼らはひとりぽっちだった


ライオンは毎日 草原を走った
シーラカンスは深海を 散策して回った
ライオンは、走りつかれたころ 美しい夕焼けを見たし
シーラカンスは時折 美しい宝石を見つけた
けれど彼らはひとりぽっちだった


ライオンは走る
サバンナが終わりやしないかと思って
シーラカンスは泳ぐ
海が途切れやしないかと思って
けれど彼らは永遠に出会えない
けれど彼らは永遠に出会えない


ライオンはある日 一匹のうさぎに出会った
シーラカンスはある日 一匹のサメにであった
ライオンは親しげに話しかけた、
うさぎは罵声を叫んで逃げた
サメは親しげに話しかけてきた、
油断したシーラカンスは頭から食われた


ライオンは走る
雄叫びがどこかに届きやしないかと思って
シーラカンスは眠る
血液は海に溶けて死体は腐ってゆく
もう彼らが出会うことはない
もう彼らが出会うことはない


深い眠りの中で シーラカンスは
耳慣れない咆哮を聴くよ
悲しい風の中 ライオンは 静かに立ち止まる
海だ。



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