黄色い公衆電話



路地裏の古びた広場に呼び出された
駅にポツンとあった
黄色の公衆電話の受話器を上げたんだ
いたずら半分でね
そうしたら呼び出し音が鳴って
テレビを消す音みたいなノイズがして
誰かが出たんだ


そいつは黒猫だった
一声聴いて分かったよ
人間並みの体躯をした 隆々とした黒猫さ
夜みたいな毛並みの胸元に
緑の蝶ネクタイをして
星の色の目をずるがしこく光らせてる


そいつは言った。
アパート裏の広場に来いって
だから昼飯を終える合図の
牛乳を一瓶飲み干した後、
はきつぶした革靴をはいて家を出たんだ


一歩進むたびレンガの歩道の地下に組まれた歯車が
一巻きづつ巻かれてく気がした


広場の 赤い錆びたブランコの前に
黒猫はにやにや笑いながら立ってた
乾いた風がひゅあっと吹いた
玉虫色の蝶々がたくさん飛んできて言うんだ


だまされないで、だまされないで


黒猫は歯をむき出してぼくに手招きする
どうやらあの朱色の水道管が
どこかに通じてるらしいんだな


鋭い爪・・・巨大な牙・・・蝶々で覆い尽くされる視野!
そしてエナメルみたいに光るそいつの蝶ネクタイ。


そこではっと受話器を置いた
ヂン!っていって電話は切れた
受け口からはシュウシュウ風を吸い込んでいたよ
歩道は相変わらず閑散としているし。
ぼうっとしてたけど受け口から白い手が伸びてきて
広場の水道管の中にひきずりこもうとするものだから
走って逃げることにするよ
お昼ご飯の牛乳がまだなんだ。



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