三つの部屋



赤い金魚が白い部屋にポカンと浮いている
ぶぅーん、聞こえるのは清浄機のモーターか、
壁の換気扇が回る音です
(一見静止しています)
きっと外は夜です
満ちているのは水なのか空気なのか分かりません
どちらにしても沈黙が隅々まで行き渡っています


うさぎの帽子をかぶった女の子が
金平糖を数えています
大きな瓶を小脇に抱えてとても嬉しそうです


隣の部屋の壁は真っ黒く塗りこめられています
薄汚れた袋をかぶった男が佇んでいます
金魚の部屋のモーター音(?)が、
まるでチェーンソーの唸りのように響いています


男はお尻のわれめにコンセントをさしています
背中のほうに回ってみると、
「充電中」と書かれた紙が
セロハンテープで貼り付けられています
男の目が何かの合図のように
チカチカとナナカマドみたいに光るのは、
充電完了の合図を待つためなのです


向かいの部屋は緑色で
あちらこちらで猫の目が、ぎょろりぎょろりとしています
ぽつんと置いてあるアンティークの机には
蝶々結びのリボンが大切に供えられています


机の引き出しがガタガタと鳴り出しました
何かが出てくるのかもしれません
それは鋭い牙を持った恐ろしいものかもしれないし、
ただのか弱いねずみかもしれません
猫の目がゆっくりと、いっせいに瞬きするころ
夜は明けるのです


黒い部屋
「ピー」という音と共に、男の充電が終わりました
青い目で男はゴジラのように
おごそかに一歩を踏み出すのです
白い部屋
金平糖にかこまれて女の子は顔をあげます
その頭上で
金魚は死んだように腹を見せています


緑の部屋
机の引き出しがいよいよ開いて
一本の青白い腕がにょっきり突き出しました
その爪は滴るような赤、と決まっているのです



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