紳士症候群



小さいころから口が達者な子どもって
そこら中に蔓延っているじゃないか
けどぼくは今でも尚そんな子どもじゃない
むしろ小さなころから子どもだったかどうかさえ怪しい


深桃色の毛糸に目の前を覆い隠されて
全てに気づくとき、ぼくは何才の老婆だろうか


体に感じた熱は分厚い毛布から伝わっていて
手を繋いできたものは無機質な もの に過ぎなかった
薄荷の香りの音が、うすらぼけた頭をすり抜けて
雪の予感を蘇らせる
知らせて。教えて、ぼくに
わかる。もう少しで
ぼくが見ている風景の嘘が姿を現すってことが


深刻な病気がピーターパン・シンドロームならば
ぼくが悩まされているのはジェントルマン・シンドローム
ぼくは今でも尚 奥のほうに縮こまって
君らのよく回る口にひたすら耳を傾けつづけてる


騒音に恵まれ無音に富み
その癖手ごたえはひんやりとして
電話のベルの音が空気をつんざいて
レ キ シ の ア シ オ ト が キ こ え る


深橙色の巨大な帽子に目の前を覆い隠されて
全てを忘れるときぼくは地の底に眠る
骨ダラウカ。



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