夜の香がする



すずしい風がふきぬけましたねと誰かが云う
きみのひとみはどこか遠くにむけられていて
ニセアカシアの香を含んだ
夜の空気のことなど
しらないんだろうなとふと思ったんだ


壁のらくがき
ぼくもやりたい
でかでかかきたい
白昼夢みたいな色で


電車からみる風景はどこまでもどこまでものびて
触手みたいに
ぼくの髪を追ってくる
(目的の駅はまだですか)
(まだまだ)
(まだつかない)


うっとりと吸いこむ夜の香
黒い光が豊満にたちこめていた
チョコレートを口にすべらせたんなら
忘れよう しあわせなんてもの
ほら夜の香がする
ほら夜の香がする
五月ともなれば虫も生きだしたかな
きみのめだまはいつまでもこどくにえいえんをみてゐた



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